死ぬほどやることがある。比喩ではない。死ぬ(ことをついついかんがえちゃう)ほどやることがある。
深夜0時、やらなければならない課題が3つ、書かねばならない履歴書、エントリーシートが少なくとも3つ。ついでにとっとと料理しないと腐る野菜が冷蔵庫にいくつか、山積みの洗濯物、もう靴下は明日はくやつしかない。
どれもやる気にならず、パソコンで麻雀を打って、負けたら呻いて、勝ったらたばこを吸って、ふと4時ごろになぜかとてもとても悲しくなり、胃がつぶれそうな思いになったが昼から何も食べていなかっただけだったと思い出した。夏が近づいてきて空が明るくなるのが早くなって恨めしい。鳥が鳴いている。これはもう朝だ。朝に食うんだから朝ご飯だ。ということで、米をレンジで温めインスタントの味噌汁を作り、納豆を300回混ぜて(最初に150回混ぜてからたれを入れて再び150回混ぜる)白飯の上に載せ、いかにもといった様子の朝食を平らげ、そして、寝る。
起床、12時30分。作っておいたアイスコーヒーを飲み干し、タバコを吸う。13時、オンラインで会社説明会に参加。荒れ果てた部屋の中、背広を着た俺が座っている。だが、カメラをオンにしろと言われなかったので、トイレの中で聞いていた。
説明会終了。この時点で14時。
授業が16時20分から。
背広を着ているので横になれない。外に出るしかない。行きたくない行きたくない。
タバコを吸う。吸い終わるとやることがなくなる。Twitterを開くが、さっき見たときとあまり変わっていない。
仕方がねえので家に出る。なんか涼しいなと思ったら雨が降っていた。
39教室へ向かう。この時間から授業だと、逆に行きたくなくなる。いや行きたい授業などないのだが、早起きして頑張って向かわずとも、16時からならばと油断して昼寝なんぞしていると起きたら19時だったりする。ということで最後に39教室に来たのがいつだか覚えていない。
大教室の中でディープキスをしている男女がいた。他には誰もいない。おれは3回くらい外に出てここの教室番号を確認したが間違いなくここだった。だが、男女が大教室の中心で愛を営んでいるのも間違いなかった。
ディープキスをしている男女は濃紺の背広を着た22歳5年生のおれの気配に気づかない。とりあえず着席する。
すると、男子学生が一人大教室へ入ってきて着席した。
【39教室 内訳】
・男子学生(舌を入れている)
・女子学生(舌を入れられている)
・男子学生(後から入ってきて、イヤホンをしてスマホをいじって着席している)
・男子学生(留年している。困惑している。)
という状況が5分続いても教員がやってこなかったのでおれはあ 【男子学生(後から入ってきて、イヤホンをしてスマホをいじって着席している)】に声をかけた。
「ここって年金論の授業ですよね?」
「あ、きょうオンデマンドで休みだって先週言ってました。」
おれは5階の喫煙所に向かった。
そのあとは、大学のパソコンで履歴書を書いて印刷したり、就職指導課に行って履歴書を見てもらったりしていた。次の5限の授業にも長らく行っておらず、とりあえず行ってみたが、今日は「あ」行が当たるだったようで怖くなって開始10分ほどで逃げ出した。教室の中で、おれだけが濃紺の背広を着ていて異様に目立ち、急に立ち上がって一目散に逃げたしたので気が付かないはずはなく、教授と目が合ったがおれは逃げ出した。
帰りの中央線の中では座ることができ、天井や外の景色を眺めたかったが、だんだん混んできて上を向いていると特定の人物を凝視しているように見えてしまうので仕方なく俯き、いかにしてあの教授に詫びを入れようか考えていた。
水道橋、飯田橋、市ヶ谷、四ツ谷、信濃町、千駄ヶ谷、代々木、新宿、大久保、東中野、中野
代々木あたりで、教授に詫びを入れるほかに今からしなければならないことを思い出してさらに嫌な気持ちになった。
新宿でたくさん人がおりて、また乗ってきて、みんなちゃんと生きてて偉いな、ちゃんと生きてる人たちがたくさん乗ってきてなんかこわいな。でもおれは濃紺無地の背広にアイロンをかけた白いシャツと無地のネクタイを締めて磨いた革靴を履いていて、見た目だけまともになろうとしててしゃらくさいなと思った。
大久保あたりで、まともそうな格好して電車に乗ってまともな人間を演じることに次第に興奮してきた。
東中野あたりで、こんなにろくでもない人間なのにいかにもまともな人間の顔して電車で移動しているという遊びを楽しみ始めた。
中野駅のホームに降りてエスカレーターを下って改札をでて信号待ちの列に並ぶまではいつも何も考えない。字が書けなくなろうと箸の持ち方を忘れようとクレジットカードの暗証番号を忘れようと、すべてを失っても、この経路だけは身体が覚えていそうな自信がある。
そして、だいたい信号待ちで空を見上げて我に返る。新しい駅ビルの工事現場がだんだん背が高くなっていき、空を狭くする。ガード下の長すぎる掲示板の中身が入れ替わっている。車いすに乗った老婆がじっと動かずに道往く通行人を憎らしそうに睨みつけている。子供二人を乗せた電動アシスト自転車とウーバーイーツのお兄さんのロードバイクと乱暴に急加速するタクシーと洗車されてない白いBMWが路上で熾烈な争いを繰り広げている。交番には今日中野区で死んだ人間の数が掲げられている。おれは洗濯と課題と企業に送る作文をやらねばならない。
交番の前で変な踊りでもして捕まろうかなと思ったが、父親に電話されたら嫌なのでやめた。
全部嫌になってきたので、甘いものを飲んだり食べたりしようと思った。
甘いものの中でもひときわ好きなものである、モスシェイクを飲みに行こうと思った。
モスシェイクを飲みに行こうと思ったので、モスバーガー中野南口店に行った。
モスバーガー中野南口店に行って、モスシェイクを注文した。
モスシェイクが欲しかったので、おれはSuicaを端末にかざした。
そしたら、モスシェイクが手に入った。
おれは、歓喜した。
おれは、店員に一礼した。
パルプ・フィクションでジョン・トラボルタがシェイクを飲んで「なんだこれ美味えな」って言ったシーンを、おれは毎回やってしまう。だがおれが便所から出てきてもブルース・ウィリスはおれをぶち殺してくれない。ちなみにモスバーガーではスプライトが出てこないのでサミュエルエルジャクソンの真似はできない。だが、モスバーガーはアイスコーヒーが程よい苦みとコクで美味しくオニオンフライやポテトと大変合うので気にしない。
スプライトは仕方がなくマクドナルドに行ったときに頼む。
モスシェイの容器は蓋が透明である。容器の中では、ストローにモスシェイクが吸い込まれ、白いモスシェイクの水平背線が、中央に突き刺さったストローのまわりから陥没していく。くぼみが出来上がる。
どこかでこれを見たな。
あれだ、おれが好きな映画007・スカイフォールのオープニングだわ。
イスタンブールの電車の屋根の上でボンドが悪人と闘っていて、電車が橋の上に差し掛かったところで同じく英国諜報機関MI6の諜報員イヴ・マネーペニーが悪人を狙撃しようとするんだが、ボンドと悪人がもみ合っていてボンドに当たりそうになって引き金を引けず、そしてらロンドンのMI6本部で作戦を指揮していた上司のMが「いいから撃ちなさいよ!」(Take the bloody shot !)(迫真のイギリス英語発音)と怒鳴り、マネーペニーが撃ったらボンドに当たってしまい、ボンドは橋の上から滝の中に落下。作戦は失敗。ロンドンのMの執務室の外では雨が、ちょうど今日のような雨が降っていて、その雨がMI6(正確にはSecret Intelligence Service通称SISであり、Military Intelligence : MI6は正式名称ではない。)本部の目の前を流れるテムズ川に降り注いでいる。神田川ではなくテムズ川である。さっき電車の中から見てきた神田川ではない。ロンドンはあんなに緑豊かじゃないしあんな変なところに釣り堀はない。
ボスの命令で撃たれてしまったボンドは滝つぼへ落下、そのまま川底まで沈んでいく。
沈んでいくボンドは悪夢を見る。アデルが歌うオープニングテーマ「SkyFall」が流れる。川底が、まるで、今飲んでいるモスシェイクのようにくぼみ、その底から巨大な手が出てきて、ボンドの片足を掴み、川底は崩れ落ちて、ボンドを悪夢の中へといざなう。
youtu.be
モスシェイクを吸っているおれは、モスシェイクの中へと吸い込まれ、悪夢の中へと引き摺り込まれるが別に引き摺り込まれるまえも悪夢みたいなもんだからまあね。
違う。
そうではない。
おれが言いたいのはそういうことじゃないんだ。
だいたいモスシェイクが飲んでる最中にくぼんでるのスカイフォールのオープニングに似てるわって気付いたの書き始めた後だし。
起稿する前は他に考えてたことあるだろ。早くしねえとモスバーガーしまっちまうぞ。パソコンのバッテリーもなくなるぞ。
ふと思ったんだよね。去年の今頃何してたか。別に今日に限ったことじゃないんだ。去年の今頃なにしてたかななんてのは、たまによく考えるんだ。なぜかはわからないけど、最近は特に頻繁に考えるようになったな。
ジョー・力一(りきいち)という男がやっているラジオで、「超にんげんっていいな」という「にんげんっていいな」の替え歌を募集した企画がある。その採用作品の一つを引用したい。
【朝ラジオ】ジョー・力一の深夜32時 #28【にじさんじ】 - YouTube
この2番の歌詞の一節である。
いいないいな学生はいいな
社会の荒波知らずに生きて
バイトだサークルだやってるだろな
戻りたいよ青春の日々
年々白髪が増えて Cry Cry Cry
おれはすでにこの境地に近い部分に達している。過去のおれ自身が羨ましい。
(ちなみにおれは『ひたかくしていた横恋慕~』がいちばんのお気に入りなのだが)
https://www.youtube.com/live/115GT6W3CGk?feature=share&t=5097
当然だが、去年あった、楽しいことを思い出して、逃げ出したいのである。
なぜなら、あまりに今楽しくないから。
去年の今頃、おれの家で演劇の稽古をしていたころ、ある日の日曜の稽古の終わり、役者だった姐さんが次の日仕事に行きたくない帰りたくないアイス食べたいと言うので、「アイスもいいですけど、モスシェイクって飲んだことあります?」とモスシェイクを買いに行ったことがあった。
モスシェイクを飲んだことがない奴が多すぎる。と、おれは思う。と同時に、みんながみんなモスシェイクを飲み始めたら嫌だな。ともおもう。モスシェイクをこの世界で見つけることができて、モスシェイクの素敵なところに気が付けるのは、おれだけだ。愛してる。そんな自己陶酔が出来なくなるのは少し嫌だがそれにしてもモスシェイクは美味いのでこれからの暑い季節是非とも読者諸氏はモスバーガーに足を運んでみることをお勧めする。普通のバニラもコーヒーも美味しいが私の一押しは
まぜるシェイク 宇治抹茶 ~石臼挽(いしうすび)き抹茶使用~
である。
www.mos.jp
懐かしいな~と去年の今頃に携帯で撮った写真を眺めているとふと思い出した。
ところで今日は、6月22日だった。
去年の今頃からさらに2年前、2021年の今頃にスクロールしてみた。
おれがこの中野に引っ越してきたのは、6月22日のことだった。
あれから、今日で2年たったことになる。
iPhoneの写真フォルダの、2021年6月22日以前はすべて山形の写真。2021年6月22日以降は東京での写真。
中野駅のホームに降りてエスカレーターを下って改札をでて信号待ちの列に並ぶまではいつも何も考えない。字が書けなくなろうと箸の持ち方を忘れようとクレジットカードの暗証番号を忘れようと、すべてを失っても、この経路だけは身体が覚えていそうな自信がある。
これをはじめてやった日というのが、そういえばあった。
駅から自分の家までの道がまだわからなかった時期というのがあった。
モスバーガー中野南口店を、「発見」した瞬間が、あったのだ。
おれは鞄に手を突っ込んでパソコンを取り出し、モスバーガーの店内でこの記事を書き始めた。19時少し前のことである。
筆が乗ったのか、今日が引っ越してきてから2年だという話につながるまでが異常に長くなった。わけのわからないことを永遠に言っている。楽しかった。楽しすぎる。
yabusaka-nikki.hatenablog.com
なぜ自分が書くのかについて、正確な答えに辿り着いたことはない。しかし、僕にとって書くという行為は限りなく「八つ当たり」に近いものだとは思う。そして、僕は「八つ当たり」をしないと生きていけない。